暗い雰囲気の中、ルフィがじっと眠るゾロの顔を見ている。、
「大丈夫だっ。たかが不思議クラゲにゾロがやられるはずがない!しししっ」
突然、そう根拠の無いことを言って、ゾロのデコをペシペジと叩いて出て行った。
「そうね、、とにかく、コイツが起きないと何もわからないわ。チョッパー、ゾロを頼んだわよ?
ルフィが心配していないって事は、多分、大丈夫なのよ。いつだってそうだもの」
ナミはすっと立ち上がると、いつもの顔に戻って言った。
「サンジ君、お腹減ったわ。ゾロがとってきてくれた貝、料理してくれる?
コイツだって、起きたらハラペコのはずだし?」
「そうですね、ナミサン♪」
サンジはにこやかに返事をして皆の後に続くが、ゆっくりと振り返り
「チョッパー、、、ゾロが起きたらすぐ教えてくれよ」
食料の調達は自分がすべきだったのだ。
脳みそ空っぽのクセに、即行動するゾロに無茶させてしまった。
結果的にクルーを救ったことになるわけだし、回復したら素直に礼を言いたい。
「大丈夫だよ、サンジ。オレ、解毒剤を作ってみる!このクラゲがあれば
なんとかできるはずだ!」
頼んだぞ、チョッパーを残し、サンジもキッチンへ向かった。
クルーたちが久しぶりの満足のいく量の食事をしていると、
チョッパーが息を切らしてキッチンに入ってきた。
「大変だ、、、ゾロが、、、」
チョッパーの言葉も最後まで聞かずにサンジは男部屋へ走っていた。
「ゾロッ!!」
サンジが乱暴にドアを開けて見ると、戦闘状態の殺気で抜刀したゾロが立っていた。
サンジが入ってきた方向に顔を向けるが、目は開かれていない。
「ゾロ、オレだ、見えないのか?ゾロッ!?」
サンジはあまりのゾロの威嚇に
目が見えていないこと、さらに多分、耳も聞こえていないだろうと判断した。
「聞こえていないのか?聞こえるなら返事しろ」
ゾロは、気配をうかがうようにじっと3本の刀を構えたままだ。
今、あの間合いに入ってしまえば間違いなく斬られるだろう。
目と耳はやられている。。。。間違いない。
サンジはふと気付いてタバコに火をつけてみた。なるべくゾロのほうに
煙が行くように噴出してみるが、ゾロに、何の変化もない。
「ゾロ・・・・」
サンジはゾロが、真っ暗なところで音も匂いもない空間で一人、戦っていると思うと
やりきれなかった。クルーの為に食材を捜してくれたゾロ。
本来はお礼を言うべきだったのに、ルフィのせいとはいえ食糧管理できなかった自分の
ふがいなさと、ゾロに助けてもらった悔しさとで
不機嫌な態度で接してしまった。プライドが邪魔してゾロに素直に感謝できなかった。
「船長のためなら危険も顧みずなんでもするヤツだ」と思って
感謝どころか呆れたくらいだった。
なすすべなく立ち尽くしていたサンジの後ろからチョッパーとクルーたちがやってきた。
「サンジ、ゾロは視覚・聴覚・嗅覚・声帯がやられているんだ。
三半規管も麻痺しているから、平衡感覚も無いと思う」
「声も出せないのか?平衡感覚がないって、、、治るのか?チョッパー」
サンジが怪訝な顔をチョッパーに向ける。
「オレだってゾロを助けたいんだっ、全力を尽くす!だけど今この状態では
治療のしようがないだろうっ!?」
小さな船医も目に涙を浮かべて必死に叫んだ。彼だって何とかしたいのだ。
だが、こんな状態では治療どころかゾロの体力ももつはずがない。
サンジがタバコをギリっと咥え直し、
一歩一歩ゾロに近づき始めた。
「やめろ!サンジ、ゾロは自分がどこにいるのかわかっていないんだぞ!?」
ウソップが叫ぶが、その後ろからルフィが首だけ出して言う。
「いや、、、大丈夫だ。ゾロはサンジのことは斬らないぞ。サンジに任しておけ」
「ルフィっ!だからサンジかどうかなんてわかんねーだろ?ゾロにはっ!」
「その通りだわ。サンジ君、落ち着いて、、、サンジ君待って!」
サンジがゾロの間合いに踏み込んでしまった。
ゾロの殺気が空気を揺らす。サンジはゾロの顔を見ながらいつも通りの
歩調で近づく。まるで、「飯だ、起きろ」と言いに行くかのような足取りだ。
ゾロの3本の剣がいきなり風を切る。
「サンジーっ!!」
「やめて!ゾロッ!!」
後ろのクルーの声もサンジは無視した。ただ、ゾロの顔だけを見ていた。
体の左右に鬼轍・雪走。首筋に和銅一文字という状態でピタリと剣先が止まった。
「ゾロ、わかるな?オレだ。サンジだ。」
サンジはゆっくりと話している。だが、ゾロには聞こえてはいない。
剣先は止まったまま。サンジも身動きは取れない。
サンジはノンビリとした調子で普通にしゃべっている。
「お前の採った食材、本当に助かったよ。二週間は楽勝だ。
うつぼはお前の好きなカバヤキにしてやるからな?」
『シャキン!』
一瞬の間に刀が鞘に納められた。
サンジがそっと、緑色の髪の毛に手を滑らせる。声が聞こえないのだ。
接触でしか伝わらない。
ゾロは震える唇でその名をかたどった。
(サ・ン・ジ)
「そうだよ。オレだ。」
サンジの返事はゾロには聞こえてはいないが、ゾロはやっと安堵の溜息をついた。
目や耳がダメでもコイツは気配を読める。それはわかっていた。
でも、三半規管までもがやられていたのなら、極度の眩暈が起きていて
気配どころか上と下の区別すらつかなかったはずだ。
しかし「斬りたいものだけを斬れるようになった」と言っていたのを
思い出した。アラバスタを出てから、しばらくして簡単に鉄を切って見せた。
そして、「刀のほうがオレの意思を尊重してくれる」とも言っていた。
改めて、刀達にもお礼を言いたい気分だ。
さすがのサンジと言えどあの距離で、あの殺気で斬り込まれたら危険だ。
しばらく突っ立っていたゾロが手をさまよわせ
サンジの服を引っ張って唇だけ動かす。
(タバコの匂いがしない)
当たり前だが不安だろう。目や耳だけでなく、鼻も麻痺しているとなると
頼るものは気配だけだ。それすらも今は激しい眩暈が邪魔をして
判別不可能にしているのだろう。
それでも、サンジ本人だという確証が欲しいのか、
あのゾロが「タバコの匂い」を必死で探していたのかと思うと、少し笑える。
サンジは動物に対してよくやるように「敵ではない」という意思表示のつもりで
そっと緑の髪を撫でながら、ゾロの手の平の上に文字を書いた。
(チョッパーが解毒剤を作っているからすぐ治る)
しばらくして手から脳へ言葉が伝わったのか、ふっ、と息を吐いて
コクンとうなずいた。
「ルフィ!!急にゾロに触るんじゃねー!ビックリさせるだろうが!」
サンジはゾロの前にかばうように立ちはだかったままルフィを叱っている。
アレ以来、毎日、サンジはゾロの世話を焼く。今日で3日目だ。
チョッパーが毎日こもってがんばっているが、そう簡単には解毒剤は出来ないようだ。
ゾロは”すまん”を連発しながらも、サンジに素直に頼るようになった。
はじめの頃、(なんでも自分でできる!)とゆっくりと口を動かしたゾロだったが
自分の乗っている船で迷子になるのは勘弁して、、とのナミの一言で全員が頷いた。
それにゾロへ何かを伝えるのには、手のひらや背中に文字を書いて伝える方法しかない。
そうなると、ルフィは問題外なので、ケンカはするが同い年のサンジが適任だった。
不安そうな顔でヒョコヒョコとサンジの服を掴んで後をついて歩くゾロは
子供みたいで、クルーたちも早く治って欲しい反面、
たまらなく可愛らしいと思っていた。
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