『ストレス』
「クソ剣士!だからてめぇは役立たずだってんだよ」
「、、、、、そうかよ」
「買い物一つもろくにできねぇ、船に戻ることも一人じゃできねぇ、
お前のせいで船にどんだけ迷惑かけてるか考えろや。少し」
「、、、あぁ」
「聞いてんのかよ、ちゃんと!ナミさんに謝れよ!ったく、出航時間は遅れるわ、
海軍には追われるわで散々じゃねぇか。少しは反省しろよ!馬鹿マリモがっ!」
ログを溜めるために寄港した港で、ゾロだけが時間に帰らず、
ルフィが捜しに行って、ゾロと一緒に海軍も連れてきて、港でひと揉めしてから
ようやく出航したメリー号。
クルーたちはゾロを心配したのと、戦闘疲れでぐったりだ。
遅い夕食の席で、サンジがガミガミとゾロを叱った。
いつも、ソコまで言わなくても、というほどにサンジはゾロに冷たい言い方をする。
「サンジ、言いすぎだ!ゾロだって反省してるじゃないか、もう良いだろ?」
チョッパーがたまらず助け舟を出すが、サンジはゾロを睨むだけだ。
ナミは我関せず。ルフィは食い物に夢中。ウソップはオロオロ、ロビンは微笑の
相変らずのクルーたちだ。
そしてとても反省しているようには見えない、ふてぶてしいゾロの顔。
無表情にもくもくとご飯を食べて、ちゃんと”ごちそうさま”といつも通りに食べたものを
シンクに入れて、さっさとキッチンから出て行った。
「あのクソ野郎のどこが反省してるって?チョッパー。あいつはいつもそうなんだよ。
一人が長かったから、人のことなんてお構い無しだ。団体行動の取れない一匹狼ってやつだ」
迷惑な野郎だぜ、まったく。
ブツブツといまだ文句をいいながら、サンジはデザートの準備をしていた。
「ゾロ、、、大丈夫か?」
甲板で酒瓶をラッパ飲みしているゾロに、チョッパーが近づいて言った。
「ん?大丈夫って、何が」
「いや、、、たくさん悲しいこと言われて我慢してただろ?」
手すりにもたれて海を見ていたゾロの足元に、チョッパーが首を伸ばして
ゾロを目を合わせようとしている。
ゾロはチョッパーのほうに向き直ってしゃがんで、帽子の上から頭を撫でた。
「ははっ、何言ってんだ、オレが落ち込んでいるとでも思ったか?くくっ、んなわけねぇだろ」
ゾロはチョッパーの大きな瞳が真剣だったので、膝の上に向かい合わせに座らせて
「マジで、あんなこと言われたくらいで凹むわけねぇだろ?心配すんな、いつものことだ」
そういって、笑った。
「ゾロ、、、オレ、動物なんだよ。動物って目で会話したり、声のトーンで相手の感情を読み取ったり
人間には気付かない体臭でイロイロ判断できるんだ」
「、、、、?」
急に難しい話をし始めたチョッパーに、ゾロは首をかしげる。
「だから、ゾロは本当はスゴク悲しいとか、無理してる時の目とか、怒っている時の威嚇の匂いとか
落ち込んでいる時の声の、、正確には喉の震えの違いがわかるんだ」
「へぇー、そりゃスゲーな。だったら、ナミのヒステリーとか事前にわかるだろ?便利だな」
ゾロは明るく話をそらそうとしたが、チョッパーは誤魔化しを許さない。
「ゾロ、、、実はなぜだか、ゾロだけわかるんだ。大人の人間は、感情を隠すのがうまいだろ?
子供の目とか、匂いとか声はわかりやすい。大人だとオレもさすがに読み取れない」
あっ、ゾロが子供だって言ってるんじゃないぞ!たまたま、オレには感じれるんだ。
あっ、あっ、ゾロが動物っぽい、って言ってるんじゃないぞ!きっと、周波が近いんだ。
あっ、あっ、あっ、だからと言って、いつもゾロばっかり観察なんてしてないぞ!オレは、オレは、、
チョッパーは誤解されないように必死で説明するが、
要は、ゾロは動物的で感情を誤魔化せないガキだ、と言っているようにしかゾロには聞こえない。
「ははっ、いいって、チョッパー、何も怒っちゃいねぇよ」
ゾロは心配しているらしいチョッパーをなでなでしてやる。この毛皮が気持ちいい。
すると少し安心したチョッパーがゾロの顔を見て、
実はゾロのことで気になっていることがある、と言って話し出した。
「そろそろ限界がきているような気がするんだよ。我慢しすぎだよ、ゾロ。
無表情にしているのはクセか?アドレナリンが大量に出ている時とか、オレにはわかるけど
ゾロの顔を見ると、驚くくらいに普通にしているだろう?アレ、よくないぞ」
チョッパーはせっかくゾロと二人きりなので、心配していたことをキッチリ話しておこうと思った。
わかりやすいヤツだ、と自分は思ったのに、ルフィ以外のクルーはゾロのことをよく誤解したりしている。
一番強烈にそう思ったのが、ビビがいなくなったときだ。
皆が寂しい、寂しいといっていた時(オレも言ってたけど)ゾロは平然としていた。
近くに寄らなかったから、気付かなかったけど、そのあと鍛錬していたゾロからは
切ないほどの空気が流れていた。
何気なく側に行くと、涙の匂いがした。涙は一粒も出ていないが、鼻の奥くらいまでは来ていたのだろう。
目を見たら、瞳孔が開いていて、どこか遠い世界を思い出している目だった。
スゴク、スゴク、辛かったんじゃないか。ゾロだって。
ビビがいなくなって、とても寂しいんじゃないか!
なのに、強がっている風でもなく、いつも通りの無表情で過ごすゾロが
医学的に良くないと、チョッパーは思うのだ。
哺乳類、とりわけ、人間は”感情”が豊かだ。サルのように感情のままに行動できればいいが
人間と言うものは面倒な生き物で、成長に比例して感情を押し隠すようになっていく。
でも、不思議とゾロは判りやすい。見た目は他の人間よりも感情を表に出さないが
目とか匂いとかがまるで動物のようにハッキリしている。
普通の大人の人間は”触覚”だけはどんどん発達して、周りが気になってしょうがないらしく、
やたらと情報を収集したがる。そういうのもゾロにはない。ルフィもそうだが。
ルフィはともかく、ゾロは本物の人間だ。
感情を行動や体に反映しないと、神経細胞に支障をきたす。
医学的にはストレスの蓄積が体や、精神状態に悪影響なのだ。
一生懸命、チョッパーは話した。
だが、ゾロは聞いているのか、難しくてわからないのか、ぼんやりチョッパーを
抱っこしたまま目が半分になってきた。
「聞いてるか?ゾロ!大事な話だぞ!」
確認してみるが、「んぁ?ん、、、意味わかんね」といって、そのまま寝てしまった。
、、、、、、。
一番良くない、、、、ストレスに気付いていない。一番良くない病状だ。
少しずつ、少しずつ、精神をおかしくしていくのだ、ストレスというものは。
本人が悲しいとか辛いとか、自分は感じない、と思い込んでいる。
”どってことねぇ””たいしたことねぇ”と言い聞かせて、気付かないでいる。
でも、涙の匂いがする。アドレナリンが放出されている。
黒目の様子をみれば、無表情でいられるはずなどないのに、ゾロは平然としている。
そのゆがみは、例えば、睡眠時に夢で調節したりしているはずだ。
精神のバランスを保つために、夢で叫んだり泣いたり。それも一種の人間の防衛本能だ。
だけど、限界を超えると、、、本当に体か、もしくは心に影響を及ぼす。
チョッパーはゾロの静かで整った寝顔を見ながら、ドクターの言葉を思い出す。
『人間は感情の生き物だ』
ゾロをなんとかしたい。だが、このことをクルーには言えない。
ゾロのプライドを壊すようなことは逆効果だ。
何を言ってもゾロは平然としているので、サンジもナミも、言い方がどんどんキツクなっている。
このままでは、いつかゾロが、、、
抱っこされたままの体制で、チョッパーは力なく溜息をついた。
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